
原則として、婚姻期間に増えた”共同財産”を、財産分与で夫婦で分けることになります。
よって、相手に不法行為がない場合は財産分与・慰謝料の支払いが義務付けられています。しかし、一方に”悪意の遺棄”があった場合は受け取り割合が変動することもあります。
目次
1.夫婦の共同財産とは?
共同財産とは、婚姻してから夫婦が共同で増やしてきた財産のことです。
婚姻以前から、所持していた財産は“特有財産”と言い、財産分与の対象外になります。
2.財産分与の対象になるもの
基本的に、婚姻してから増えた財産は財産分与の対象になります。財産分与の対象となるものは、下記の通りです。
財産分与対象になるもの!
- 婚姻してから購入した不動産(建物・土地)
- 婚姻してから購入した有価証券
- 婚姻してから購入した車両
- 婚姻してから増えた分の預貯金
- 婚姻してから購入した家財・家電
- 婚姻してから購入した高額な宝飾品(宝石・ブランド品など)
- 婚姻してから加入した保険などの解約返戻金があるもの(解約した場合の金額が対象)
- 婚姻してからの遺産相続した不動産(相続・維持するために相手の力が必要だった場合)
- 住宅ローンの残額(残っている金額も財産分与で分けます)
3.財産分与の対象外のものは?
財産分与の対象外のものは、下記の通りです。
財産分与の対象外になるもの!
- 婚姻前から持っていた預貯金(婚姻してから増えた分を引いた金額)
- 婚姻前から持っていた有価証券
- 婚姻前から持っていて家財・家電
- 婚姻前から所有していた車
- 婚姻前に相続した不動産
- 掛け捨てタイプの保険
- 自分専用として使用していたもの(洋服・家電など)
- ギャンブルで出来た借金
- 自分のために組んだローンや借金(宝石・ブランド品・エステなど)
財産分与請求の時効について
財産分与の請求には、時効があります。離婚をした日から2年以内に請求しないと、権利が失われてしまいます。
ただし、時効前に調停や訴訟申し立てをした場合には、解決まで時効が延長されます。よって、財産分与の請求は早急に進めましょう。

もし離婚から2年以上過ぎてしまった場合は、当事者での話し合いは可能ですが、法律では権利が無くなっているので、法律的な財産分与が出来なくなります。
4.別居してから増えた財産は財産分与対象になる?
別居してから増えた財産については、どのように扱われるのか知らない方もいらっしゃるでしょう。
実は、婚姻してから別居するまでに増えた財産が、財産分与の対象です。
よって、別居してから離婚する場合は、別居後に増えた財産は財産分与の対象外となります。
5.相手に悪意の遺棄があった場合に財産分与の割合が変わる
もし、財産分与を受ける側に“悪意の遺棄”があった場合は、財産分与から慰謝料の金額を引いて残った金額を支払うことになります。
悪意の遺棄とは
民法では、「夫婦は同居して、お互いに協力をして助け合うものとする。(民法第752条)こと」が義務付けられています。これに違反した行為が悪意の遺棄です。
悪意の遺棄とされる、行為は下記の通りです。
悪意の遺棄に該当する行為
- 相手に非がないのに実家から帰らない
- 浮気相手と同棲している
- 生活費を渡さない
- 妻(夫)の帰宅を拒む・家から追い出す
- 生活費の支払いの約束をして別居したのに払わない
- 専業主婦が家事すべてを放棄した
- 共働きで帰宅時間も変わらないのに、妻(夫)が家事の負担を拒否する
- 健康体の夫が働かない

逆に自分が悪意の遺棄を行った場合、慰謝料が加算される事もあります。
夫婦関係調整調停と財産分与請求調停をする
離婚前に二人で話し合いをして解決しない場合は、家庭裁判所に“夫婦関係調整調停”や“財産分与請求調停”の申し立てをします。
家庭裁判所での調停の流れ
最初に、家庭裁判所に調停の申し立てを行います。相手と自分に調停の日程の知らせがきます。
家庭裁判所で調停委員2名(夫婦に1名ずつ)と裁判官1名を交えて、アドバイスをもらいながら、慰謝料や財産分与について話し合います。
もし、何回も調停で話し合っても解決しない場合・審判に不服がある場合は、裁判を提起することも可能です。
夫婦関係調整調停と財産分与請求調停の手続きについて
申し立て先は、相手の住所地の家庭裁判所か夫婦が合意した家庭裁判所です。
【関連ページ】裁判所の管轄区域
提出方法は、郵送するか家庭裁判所に持参します。調停の申し立てに必要なものは、下記の通りです。
夫婦関係調整調停と財産分与請求調停に必要な物
- 収入印紙1200円分
- 郵便切手800円分(裁判所によって金額が違います)
- 夫婦関係調整調停申立書又は写し1通(家庭裁判所で入手するか、裁判所ホームページからダウンロードができます。)
- 夫婦の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 資産・財産に関する書類(残高の分かる通帳のコピー・不動産登記事項証明書・固定資産評価証明書など)
- 陳述書(調停を始める前に、裁判官に夫婦の状況や希望を伝えるためのものです。)
※審理を進めるために必要と判断された場合、追加書対の提出を求められる可能性もあります。
6.陳述書の作成について
調停に申し立てた場合、陳述書の提出は”任意”となっています。
しかし、1回の調停の時間は2時間程度と決まっているため、陳述書を提出することで裁判官に対して口頭で説明する時間を短縮できます。

下準備が無く、その場で夫婦の状況を口で説明すると、調停委員が理解しにくかったり、遠慮がちに言ってしまったり、誇張した事実を伝える原因になります。
そうすると結果が思わしくない方向に進むことがあります。
陳述書の書き方
陳述書の書き方は弁護士が教えてくれることもありますが、教えてくれない事もあります。
もし教えてくれない場合は、以下をご参考にしてみてください。
陳述書の書き方と書く項目
- 自分の言葉で、事実と経緯を順序立てて簡潔に丁寧に説明する
- 夫婦のプロフィール
- 子供のプロフィール
- 家庭環境、収入、預金、財産(通帳などがあればコピーも添付)
- 感情的な要素はあまり書かない(誇張表現と見なされ、委員の印象を悪くする)

嘘、大げさな表現、感情的な文章は書いてはいけません。
事実のみを簡潔明確に書く必要があります。
今回のまとめ
長年夫婦として暮らしている間に増えた財産は、財産分与の対象です。しかし、一方に”悪意の遺棄”があった場合は受け取り割合が変動することもあります。
夫婦での話し合いで、財産分与・慰謝料が決められない場合は、家庭裁判所に”夫婦関係調整調停””財産分与請求調停”の申し立てをしましょう。

熟年離婚で財産分与や慰謝料を払わない方法はありません。法律で定められているからです。
相手に確実な非があれば慰謝料の支払いはしなくても良くなることもありますが、財産分与がゼロには出来ません。
弁護士を雇った側が有利に働くこともあります。